相続 Q&A
A1. 不動産を相続したらまず登記!
相続によって不動産を取得した場合、それが自分のものであることを他人に主張するために登記をするのであり、登記しなければ罰せられるというわけではありません。
「相続権のある自分たち以外に遺産が行くわけがない」と考える人もいるようです。
しかし、これで本当に大丈夫でしょうか。
不動産をめぐる相続問題は、とかくスムーズにいかないことも多くあります。つまり登記をしておかないと、後々困ることが起きるのが不動産相続の常識と考えておいたほうがよいでしょう。
◇登記をせずにほうっておくと、権利関係が複雑になる
例えば、親の残した不動産について、相続人である子供A、B、Cの間でAが相続するということで話し合いがうまくまとまったので、安心して放置しておいたら、相続人の一人であるCが亡くなってしまったというケースは意外と多くあります。
この場合、ただ話し合っただけだとしたら、Aの名義に登記をするためには、亡くなったCの相続人であるCの子供D、E、Fを加えてもう一度協議をしなければなりません。
この協議がまとまらないうちにBが亡くなってしまったら、Bの相続人であるBの子供G、H、Iも協議に加えなくてはなりません。そうこうしているうちにAが亡くなってしまったら...。
長い間登記を放置しておくと、相続権のある人が次第に増えて、遺産分割協議が整うことが難しくなります。登記手続に必要な書類も多くなり、不動産をめぐる法律問題をさらに複雑にさせます。
◇森林の荒廃が、環境を壊すことになる
山林の所有者が亡くなった場合に、相続登記をして所有者を明確にすることは、近年叫ばれる環境問題にも大きく関わりがあります。全国には森林所有者が加入する森林組合があり、森林の手入れなどをお手伝いしてくれますが、所有者がわからないと手入れが行われなくなり、荒廃が進んでしまいます。
間伐などで森林を健全な状態に保つことにより、水害や土砂崩れなどの災害が起きにくくなり、野生動物の住みやすい環境をつくるのです。
Q2. 親が亡くなって遺産が入ると思っていたら、なんと借金ばかりだった... |
相続開始を知ってから3ヵ月を過ぎると、単純承認といって借金や債務までも一切を含めた遺産を引き継がなければなりません。
親の残した借金に苦しめられそうな場合、相続人はどのような手を打てるのでしょうか。
A1. プラスかマイナスか不明の場合、または借金が多いと予想される場合は
「限定承認」を
仮に親の遺産の総額が1億円で、借金が1億2000万円だった場合、限定承認をすれば2000万円分については責任を負わなくてもよいこととなる方法です。
つまり、相続によって得た財産の限度で債務を弁済する相続の形です。
この限定承認をするためには、相続開始があったことを知ってから3ヵ月以内に、被相続人の住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に申立てをします。
限定承認は相続人全員の意思が一致していなければなりません。またひとたび限定承認の申立てが受理されると、撤回することはできません。
A2. マイナスがはるかに多ければ「相続放棄」を
親が遺産の総額をはるかに超える額の借金をして亡くなり、子にはどのようにしても返済できる額ではなかった場合、子は相続権そのものを放棄することができます。
相続放棄の申立ては、やはり相続開始があったことを知ってから3ヵ月以内に、親の住んでいた地域を管轄する家庭裁判所に行います。
もちろん債権者は借金を取り戻したいですから、子に対して返済を請求したいのですが、相続放棄が認められると、子ははじめから相続人とはならなかったとみなされ、債権者は返済を請求できなくなるのです。
◇もともと引き継がなくてもいい債務もある
事 例 |
亡き父親は、知人が就職する際の身元保証人になっていました。 その知人が勤務先に甚大な損害を与え、多額の賠償請求がきました。 |
このような場合、民法では「被相続人の一身に専属したものはこの(相続財産の)限りではない」として、故人ではないと果たせない義務、代理のきかない性質の債務は引き継がなくてもいいことになっています。
事 例 |
父親と先妻との間に子がいたと判明。 しかし見知らぬ者には遺産をやりたくない...。 |
Bさんの父親が死亡。母は3年前にすでに他界しています。 相続人は長男のBさんと妹ですが、妹はすでに結婚して家を出ており、 父の残した土地と家はBさんが相続すると合意がなされています。 しかし、Bさんが戸籍謄本を調べてみると、母の結婚は2度目で、先妻 との間に男の子が一人いることがわかりました。ふとBさんは以前母が 言っていたことを思い出しました。「父さんが先妻との間で『今後一切 迷惑をかけない、子供の相続権も放棄させる』との念書を取っているか ら大丈夫だ」と...。 |
A. 先妻の子も後妻の子も身分は同じ
このケースでは、先妻に関してはすでに離婚しているので相続権はもちろんありません。
しかしその子においては、亡くなった父親との婚姻中の子供ですので、法律上は嫡出子の身分を有しており相続権があります。苗字が違っても何ら影響はありません。
また、たとえ子供の相続権を放棄させるとの念書が取ってあっても、法律的には効力がありません。後妻の子であっても、先妻の子であっても相続の上では権利は平等です。
このケースでは、Bさんはやはり父親と先妻との間の子に会って話し合わなければ何も進まないのです。
◇婚姻関係にない男女間の子も認知によって相続人になれる
婚姻関係にない男女間の子であっても、父親の認知によって相続人になることができます。
認知はふつう父親が戸籍上の届け出をすることによって行われます。また遺言でも認知をすることができます。認知のないまま父親が死亡したり、認知を拒否された場合は強制認知といって認知を求める裁判を起こすことができます。認知されれば相続権が与えられます。
後々のトラブルを防ぐには、父親はそのような子がいることを家族に知らせ、きちんと認知し、父親としての責任でしかるべき遺産分与方法を考えておくべきでしょう。
Q4. 相続人が行方不明。どうすればいい? |
相続人の中に行方不明の人や、生死すらわからない人がいると、
遺産の分割協議ができずに困ったことになります。
その場合は、次のような措置を講ずることができます。
A1. 不在者財産管理人をおく
共同相続人の一人が行方不明の場合、他の相続人が家庭裁判所に不在者財産管理任人を選定してもらうよう申立てができます。不在者財産管理人は、行方不明の相続人の財産の目録を作り、それを保管できる権限を持ちます。また不在者財産管理人は家庭裁判所の許可を得れば、他の相続人と遺産分割の協議をすることができます。
A2. 失踪宣告を申し立てる
行方不明者の生死が7年間不明であった場合、親族等は家庭裁判所に失踪宣告(一般失踪宣告)の申立てをすることができます。失踪宣告を受けた者は7年の期間満了時に死亡したものとみなされ、戸籍謄本にもその旨が記載されます。
失踪宣告には船が沈没したり、その他の事故などに遭った者の生死が不明の時申し立てることができる失踪宣告(危難失踪)もあります。
Q5. 相続人が外国にいるときは? |
この頃では海外に赴任している人も多く、相続が発生したときに、すみやかに相続人全員が集まれるとは限りません。
このような場合、その相続人のいる国の日本大使館や領事館等から在留証明書、署名(サイン)証明書、もしくは拇印証明書を取り寄せて、相続手続きを行うことができます。
在留証明書
海外で生活する日本人につき相続人としての権利が発生した場合は、外国における現住所を証明する書面を添付して、相続登記申請等をする必要が生じます。
その際は、その日本人が海外に在留していることを証明する在留証明書を在外公館(日本大使館、総領事館)に発給申請をします。
署名(サイン)証明書・拇印証明書
日本では不動産登記申請等で印鑑証明書の添付が必要となります。しかし、日本に住民登録がなければ日本の役場に印鑑登録ができません。
この署名(サイン)証明書は、海外在留日本人が印鑑証明書を必要とする際に、印鑑証明書の代わりに在外公館が発行するものです。また、拇印証明書が必要となる場合となる場合は、拇印証明も併せて行います。
Q6. 相続人が未成年のときは? |
事 例 |
夫が突然死亡しました。遺言書はありません。子供は小学生が一人。 遺産分割をする際にはどんな注意が必要ですか? |
A. 母親であっても、未成年の子の相続の代理をすることはできない
この場合の相続人は妻と未成年の子ですが、今の時点で相続人の争いがなくても、遺産分割では潜在的には共同相続人の間で利害が対立する可能性があります。
ですから相続人の一人が他の相続人の代理をすることや、同一人物が複数の相続人を代理することは禁じられています。
このケースでは、母親は子の代理人になることはできないのです。
◇未成年については「特別代理人」を選任してもらう必要がある
親権を行う父または母と、その子との間で利益が相反する行為については、親権を行うものはその子のために特別代理人の選任を家庭裁判所を申し立てなければなりません。
つまりこのケースでは妻が、選任された特別代理人(伯父、伯母など身内の人になってもらう例が多い)との間で遺産分割を行うことになります。
もし妻が特別代理人を選任しないで親権者として子を代理して一人で遺産分割を行った場合は、この遺産分割は無効になります。
ただし、子が成人した後にその遺産分割を承認すれば、分割のときにさかのぼって効力を生じます。
特別代理人
未成年者も相続人になれますが、名義変更などの遺産分割手続は法律行為ですから、法定代理人が必要になります。
通常は法定代理人は親がなりますが、相続にあたっては、親と子の利益がぶつかった場合(利益相反行為)、親が子の相続するはずの財産を奪って、親だけに都合のよい遺産分割を行ってしまう可能性があります。
そのため、特別代理人を選任する必要があるのです。
Q7. 養子縁組した時の相続は? |
A. 養子には実子とまったく同じ相続権がある
例えば、夫が妻の父親から「ぜひ家の事業を継いでほしい」と頼まれたとき、妻の父親と養子縁組の手続きをしておけば、妻と同等の相続権を得ることができ、事業をスムーズに引き継ぐことができるのです。
養子縁組は本来、養子となる子の利益のためにある制度ですが、このように後継者のいない事業の承継などに役立つ場合もあります。
また、すでに結婚している者が養子に行くときは、夫婦の一方の同意を得れば一人で養子縁組をすることも可能です。
事 例 |
養子に出した子がいるが、 夫が死んだ場合、その子は夫の相続人になれますか? |
養子は養親の相続人であると同時に実親の相続人でもあります(特別養子縁組の場合を除く)。養子縁組によっても実の親との間の親子関係は消えるわけではありません(特別養子縁組の場合は親子関係が消える)。また、養子に出された子にも当然遺留分があります。
養子は実の親の相続人にならないのではないかと一般に思われがちなので、相続が開始したときに、養子に出された子の兄弟たちが納得せずにトラブルになってしまう例もあり、注意が必要です。
Q8. 子供を連れて再婚した時、子供に相続権はあるの? |
A. 再婚するとき、養子縁組をすれば、再婚相手の子も相続権が得られる
子供を連れて再婚したとき、婚姻届を出しただけでは、その子供と再婚相手との間には血のつながりがないので、他人のままです。
この場合、子供と再婚相手との間で養子縁組の手続きをしておけば、法律上も親子となり、通常と同じように相続人となります。
子連れで再婚する夫婦では、血のつながらない子も養子縁組をしておくことが、将来に問題を残さないための方法ともいえるでしょう。
Q9. 相続欠格とは? |
事 例 |
Sさんの弟は普段から素行が悪く、いつも警察沙汰のトラブルが絶え ませんでした。ある日、父親から注意された弟はカッとなって父親を 殺してしまいました。 こんな弟にまで父親の遺産を相続させるべきなのでしょうか? |
A. 「相続欠格者」となれば何も相続できない
民法には、相続人が相続権を失う相続欠格という制度があります。
Sさんの弟が裁判で有罪になった場合には、Sさんの弟に相続権はありません。
相続欠格に該当する事項 (1)被相続人または自分より先順位で相続人となる者、あるいは自分と同じ順位で相続人 となる者を殺したり、殺そうとして刑に処せられた場合。これはあくまでも故意によ る殺人または殺人未遂に限られ、過失致死はこの対象に含まれません。 (2)被相続人が殺されたことを知っていながら、告訴または告発をしなかった場合。 ただし、その相続人が未成年のときや精神病などで是非の判断能力がないとき、ある いは殺した犯人が自分の配偶者や直系血族(父母、子、孫等)だった場合は除外され ます。 (3)詐欺や脅迫よって被相続人が遺言者を作ることを妨害し、または遺言の取り消し、変 更を妨害した場合。 (4)詐欺や脅迫によって被相続人に遺言書を書かせたり、取り消しをさせたり、変更させ たりした場合。 (5)被相続人の遺言書を偽造、変造し、これを破棄したり隠したりした場合。 |
◇相続欠格にあたらなくも、相続人を「廃除」できる
非行を繰り返す息子がいて、「こんな子には何も相続させたくない」という場合、相続人の廃除という制度があります。
「遺留分を有する推定相続人が被相続人を虐待したり、重大な侮辱を加えたり、または相続人としての著しい非行があるときは、被相続人は生前に家庭裁判所に申し立てて、この人の相続権を取り上げることができる」と民法で定められています。これは遺言でもできます。
ただし、相続人の廃除は極端な事由でもない限り、裁判所ではなかなか認めないようです。親の好き嫌いによって一方的
に相続人から外されないようにとの考えからです。
Q10. 寄与分とは? |
事 例 |
長女のM子さんは一生独身を通して父の看病をしてきました。 母はずっと以前に他界しています。 しかし父が亡くなると他の兄弟たちがその遺産について法定相続に則した 取り分を主張してきました。 父の看病を少しも手伝わなかった身勝手な兄弟たちにも、均等に遺産を分け ないといけないのでしょうか。 |
A. 故人に特別の貢献をした相続人には、遺産分割においてより多く認められる
利益ー「寄与分」がある
民法では相続人のうち、故人の生前における財産の維持や増加、あるいは故人の療養看護などの特別の貢献があった者については、遺産分割において、法定相続分によって取得する額を超える遺産を相続することができると定めています。
ですから、何もしないほかの兄弟に代わって父の看病をしていたM子さんの苦労は認められるわけです。このように、被相続人に寄与した相続人が得る利益のことを寄与分といいます。
寄与分の額については、原則として相続人間の協議によって定められますが、協議がまとまらないときは、寄与をした者が家庭裁判所に対して寄与分を定めてほしいと申立てできます。寄与分は相続人だけに限られ、内縁の夫や妻、亡くなった夫の両親を介護してきた妻などには認められていません。
Q11. 生前に贈与を受けているときの相続は? |
生前に被相続人から受けた贈与を特別受益とよび、生前贈与を受けた者を特別受益者といいます。特別受益には次のような事柄が該当します。
・遺言によって相続分とは別に遺贈を受けた者
・結婚や養子縁組のために費用を出してもらった者
・生計の資本として贈与を受けた者ー店や会社を設立するための資金を
親に出してもらった、家を建てる資金を援助してもらった等
A. 特別受益者は相続のとき減額される
相続人が何人もいる中で、故人から生前贈与を受けた人と受けなかった人が両方いる場合、これを無視して遺産分割を行っては不公平になり、トラブルの原因になりがちです。
そこで民法では、現実に残された財産と、生前贈与された財産を合計したものを相続財産とみなしています。ですから、現実に残された財産があったとしても生前贈与を受けた相続人にはなにも受け取るものがないという場合もあります。
事 例 |
わけのわからないうちに特別受益証明書に印鑑を押したために、 長男が自分だけの名義で登記してしまいました。 |
生前の贈与を受けたことがないのに特別受益証明書を出してしまうと、自分が受ける相続分が少なくなったり、全部なくなってしまうだけでなく、自己の相続分を他の相続人に贈与したと認定されてしまいます。
このケースのように、わけもわからないうちに安易に判を押してしまった場合は、その行為の無効を裁判等で主張すれば対処できる可能性があります。